今回は、楽しくわかりやすい話ではないですが、思うところがあったので書くことにしました。
魯迅という有名な中国の作家が、「賢人と馬鹿と奴隷」という寓話を残しているのです。
まずはそのあらすじをご覧ください。
Contents
「賢人と馬鹿と奴隷」あらすじ
苦しむ奴隷と、その話を聞く賢人
あるところに、主人に仕える奴隷がいて、日々つらい労働に苦しんでいました。
賢人は、そんな奴隷の労働や主人への愚痴をただただ聞き、「いまによくなる」と答えました。
奴隷部屋の壁を壊そうとする馬鹿
ある日、奴隷はいつものように愚痴をこぼす相手を探していました。
すると、馬鹿が現れて、その愚痴を耳にしました。
それから、馬鹿は奴隷の住む家に行き、部屋の壁を壊そうとしたのです。
馬鹿を追い払い、主人にほめられた奴隷
壁を壊そうとする馬鹿に奴隷はたいへん驚き、泣きわめきました。
その騒ぎを聞きつけた奴隷たちが、馬鹿を追い払いました。
奴隷は主人に、壁を壊そうとしたやつを追い払ったと報告しました。
それを聞いた主人は、奴隷のことをほめました。
奴隷は、よいことがあったと賢人に報告しました。
賢人は、愉快そうな様子でした。
この寓話に対する違和感
たぶん、この話を読んで、多くの方はすっきりしない感じを持つのではないでしょうか。
特に、奴隷が一見自分の首を絞めるような行為をするところにひっかかる方が多いように思われます。
ですが、私は他のところに強い違和感を抱きました。
なぜ、壁を壊そうとする者が「馬鹿」なのか?
それは、奴隷部屋の壁を壊そうとする人物が「馬鹿」と言われていることです。
ある意味、奴隷解放運動の先駆者とも言える存在であり、「英雄」とは言われても「馬鹿」はあんまりではないかと、最初思いました。
こういう話の場合、結果は同じでも「馬鹿」は「英雄」と呼ばれ、「庶民は英雄を理解しない」みたいな文脈で語られることが多い気がします。
ですが、この話では、壁を壊そうとする存在をはじめから「馬鹿」と言い切っています。
そこにこの寓話の独自性があるように感じました。
とある友人との話
なぜ、「馬鹿」と言われているのか…
考えていくうちに、先日友人と話したことが頭に浮かびました。
「やりたいことで生きていく」は必ずしも幸せでない?
あれはちょうど、「これからはやりたいことで生きていく時代になる」みたいな話題になったときでした。
彼はこのようなことを言いました。
そして、こう続けました。
これは自分には全くない発想でした。
哲学がやりたい!と思い立って後先考えず突っ込んだり、ゲームが楽しい!と思ってプロゲーマーになりたがったり。
やりたいことをやって生きるのが当たり前で、それが一番幸せなことだと思い込んでいた自分。
ですが、その考えは、他の人にとっては必ずしも当たり前ではなかったのです。
そのことに気づかされた一件でした。
奴隷の視点からこの寓話を見る
では、この話が先ほどの寓話とどうつながるのでしょうか?
壁が壊されないほうが、奴隷にとって都合がいい
それは、完全に奴隷部屋の壁が壊された後のことを想像するとわかりやすいかもしれません。
壁が壊され、奴隷が奴隷でなくなったとき、彼の身にはこんなことが起こるでしょう。
- 自分で仕事を見つけなければならない
- 主人の愚痴をこぼすこともできない
- 解放の夢が現実として襲いかかってくる
まさに、ディストピアとも言える現実が待っているわけです。
これに対し、奴隷が奴隷のままでいる場合はどうでしょうか。
- 主人から言われた仕事をやっていればよい
- 愚痴をこぼして他人のせいにすることができる
- 解放の甘い夢に酔っていられる
…どちらが奴隷にとって都合がいいか、お分かりいただけたと思います。
そう、壊されないほうが圧倒的に都合がいいんですね。
都合がいい状態をわざわざ壊そうとする…だから、「馬鹿」と書かれていたわけです。
われわれはどう生きるべきなのか?
壁を壊すべきかどうか、それはその人による
確かに、やりたいことで生きていくというのは、一筋縄ではいきません。
競争も激しいですし、思いの強さも必要ですが、ただ思いがあるだけでは勝てない。
決心をした人たちでさえ、明日の保証がない世界です。
その世界に「あえて飛び込まない」人たちへの選択肢があっていい。そう思いました。
もしかしたら、「全員に対して」「無理やりに」壁を壊そうとする行為は、「馬鹿」なことのように映るかもしれません。
壁の向こうに行きたい人は行けばいいですし、行きたくない人はそのままでいい。
もちろん、昨日まで行きたくなかった人も、今日思い立てば行ってもいい。
それは適性の問題であって、そこに優劣はないと思うのです。
ただ、「どう生きるか」を選ぶ自由があることこそが、根本的には大切なことなのではないでしょうか。
そんなことを考えた一日でした。
記事を読んで、少しでも興味を持っていただけましたら、レイニーデイのTwitterのフォローをよろしくお願いします!