先日、ツイッターでモンティ・パイソンのコメディ「哲学者サッカー」が話題になりました。
※モンティ・パイソン:イギリスのコメディ・グループ
本当は、間に一人レスリングを挟んでいます。
ニコニコ動画で、コメントを観ながら見ると面白いです。https://t.co/nL3U1saIMk— マキャベリズム (@Machiavellism28) March 23, 2019
※引用ツイートの上がショートバージョン・下がフルバージョンです
自分もわくわくしながら見まして、すごくおもしろかったです!
ですが、一個だけ引っかかる点がありました。
そう…私が大学で専攻した、最愛の哲学者ニーチェについての箇所です。
今回は、ニーチェの行動への解釈を中心に、哲学者サッカーについて解説したいと思います!
Contents
試合の流れ
ここでは動画の内容について説明していきます!
メンバー発表!
ドイツ代表 | ギリシャ代表 |
ライプニッツ | プラトン |
カント | エピクテトス |
ヘーゲル | アリストテレス |
ショーペンハウアー | ソフォクレス |
シェリング | エンペドクレス |
ベッケンバウアー | プロティノス |
ヤスパース | エピクロス |
シュレーゲル | ヘラクレイトス |
ウィトゲンシュタイン(途中でマルクスと交代) | デモクリトス |
ニーチェ | ソクラテス |
ハイデッガー | アルキメデス |
- 主審:孔子
- 副審:トマス・アクィナス、アウグスティヌス
注目の人選1:ベッケンバウアー
そうそうたる哲学者の中に一人だけサッカー選手のベッケンバウアーw
実際にベッケンバウアー本人が参加したそうですw
注目の人選2:ウィトゲンシュタイン
ウィトゲンシュタインはドイツ代表ですが、オーストリア人です。
この人選は、1938年にドイツがオーストリアを占領したことで、サッカーでもオーストリア代表をドイツ代表に組み込んだことへの風刺かもしれません。
なお、ウィトゲンシュタインは途中でマルクスと交代しますが、これは彼が一時哲学を離れて教師をしていたことへのオマージュだと思われます。
(ちなみに、交代時のマルクスは赤いジャージを着てハッスルしており、これは共産主義の赤色を表しているのではないかと)
そんなわけで、かなりニヤリとさせられる人選なのですw
注目の人選3:アルキメデス
科学者のイメージが強いアルキメデスですが、古代ギリシャでは学問の区分があいまいでしたから、哲学者としての参戦も十分考えられます。
(数学で有名なピタゴラスも、哲学者としても知られていますし)
それ以上に、ギリシャの植民都市シラクサ(現在ではイタリア)出身であることが、サプライズ人選の大きな理由でしょう。
試合終盤、彼は重要な役割を担います…
試合開始~終盤まで「皆思索にふけって何もしない」
試合開始のホイッスルが鳴り、走り出すかと思いきや…皆ボールを無視。
なんと、全員が思索にふけって何もしないのです!!
(唯一のサッカー選手ベッケンバウアーぐらいは走ってもいい気がしますがw)
さすが哲学者、何もしないことに定評があるっ!!
アルキメデスが突然「ユリイカ!!」と叫び走り出す
そんなこんなで試合は残り1分。
すると、アルキメデスが突然「ユリイカ!!(わかった!!)」と叫び、ボールに向かって走り出しました。
この「ユリイカ」は、アルキメデスがお風呂に入って水があふれたのを見て、あふれた水と自分の体積が同じと気づいたときに発した言葉ですね。
ようやくここからサッカーが始まりますw
最後はソクラテスのヘディングでギリシャが勝利!
アルキメデスからギリシャの怒涛の攻めが始まりました。
最後はソクラテスが見事ヘディングを決め、1-0でギリシャの勝利となりました!!
試合後の抗議
ドイツは以下の抗議をしましたが、主審の孔子に聞き入れられることはありませんでしたw
(抗議は内容が難しいため、概要を太字にしています。先に進みたい方は太字の概要だけお読みいただければと)
- ヘーゲル「現実など、自然でない倫理のアプリオリ(※注1)な添え物にすぎん!」
- カント「定言命法(※注2)によると存在論的には、現実は、想像のうちにしか存在しない!」
- マルクス「あれはオフサイドだ!!」
※注1:アプリオリ…生まれたときから持っているみたいな意味
※注2:定言命法…無条件に下される命令みたいなもの
特にヘーゲルとカントの抗議は、動画の字幕だと意訳されすぎていて原型をとどめていません…
(字幕を好意的に解釈するならば、「なんとなく難しい単語が使われている」感を出したかったのかもしれませんが…)
ここは直接英語を聞いたほうが面白いですね!
ニーチェ、主審の孔子を批判!!
そんな中、直接勝敗には関係なかったのですが、面白いエピソードがあります。
「孔子には自由意志がない!!」
それは、ニーチェが主審に抗議してイエローカードを食らったシーンです。
抗議の内容は、「孔子には自由意志がない!」というものでした。
※字幕では「論語には自由意志がない」とありますが、哲学者サッカーの原文には「論語(Analects)」の表記はありません。孔子の代表的な思想として論語を挙げたのでしょう
これでニーチェのイエローカードは通算3枚目となってしまいます。
さすが、破天荒な人生を送っただけのことはありますねw
真のおかしさは、警告をもらったことではない!!
ですが、このシーンの本当のおかしさは、警告をもらったことではないのです…
そもそもニーチェは自由意志に否定的では??
「あれ、ニーチェって自由意志を肯定してたっけ?」
大学でニーチェを専攻していた私は、ここが一番引っかかりました。
というのも、ニーチェは著書『善悪の彼岸』で自由意志を否定しているからです。
概要を述べますと、人間が自由意志を持っていると考えるのは幻想であり、道徳的な弱い人間のすることであるといったことが書かれています。
ですから、ニーチェが「自由意志」を軸に食ってかかることにはかなり違和感がありました。
ここは字幕にも間違いはなく、しっかり「free will(自由意志)」となっているため、英語のプロットそのものが怪しいのです。
「孔子には力への意志がない!!」だったらまだ納得できた
ここは「孔子には力への意志がない!」にしてほしかったですね…
ニーチェは、一般的な道徳を弱者のものとして批判し、力によって無意味な人生を乗り越える意志を持つことが必要だと説いていましたから。
それなら、論語などで道徳を説いた孔子を弱者と批判し、自らの力への意志を主張するという流れでつじつまが合います。
なぜここで「自由意志」が使われたのか?
これに関しては推測するしかありません。
単に事実誤認があっただけかもしれません。
ですが、最大限好意的に解釈してみます。
ニーチェの思想には、「人間は力への意志によって真に自由になる」という流れがあります。
すなわち、力を持てば自由になれますが、(孔子のような)弱者の道徳では自由になれません。
なので、「孔子くん、キミの思想では自由にはなれないよ!!」ということを言いたかったのではないでしょうか。
こういった諸々のことが省略され、コメディ内の時間の都合上「孔子には自由意志がない!!」となったのではないかと私は推測します。
おもしろくする以上端折らないといけないというのは、このブログでもよく直面する悩みです…
最後に
面白そうだなとは思いましたが、想像以上に哲学者魂を刺激される内容でした!
続編がなさそうなのが惜しいですね! もっと見たいというか。
まさしく、哲学もとらえ方によってはエンタメとなるということの大きな見本だと思います!!
今後もエンタメ哲学のブログの更新をどんどん行っていきます!!
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